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大阪高等裁判所 平成7年(ラ)160号 決定 1995年6月23日

抗告人(債権者) 藤田美智子

同代理人弁護士 大谷美都夫

相手方(債務者) 石方登

主文

一、本件執行抗告を棄却する。

二、抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一、本件執行抗告の趣旨及び理由

別紙執行抗告の申立書、執行抗告理由書及び執行抗告の理由書(補充)(各写し)記載のとおり。

二、当裁判所の判断

(一)  一見記録及び関連する別件記録によれば、本件強制競売手続が取り消されるに至った経緯につき、次のとおり認められる。

(1)  和歌山地方裁判所御坊支部は、債権者株式会社幸福銀行の申立てにより、同銀行の債務者有限会社ベストグループコーポレーションに対する根抵当権に基づき、平成五年一二月二〇日、原決定別紙物件目録2記載の建物(家屋番号七〇八番二一の二、以下「件外甲建物」という。)の敷地に当たる宅地七〇八番二一、七九六・四二平方メートル(以下「本件敷地」という。)及び同地上の件外甲建物、木造瓦葺平家建居宅(家屋番号七〇八番二一、一四一・五三平方メートル、以下「件外乙建物」という。)につき、不動産競売開始決定をした(同支部平成五年(ケ)第二五号事件、以下「別件」という。)。

(2)  一方、原審は、抗告人(債権者)の申立てにより、平成六年八月四日、原決定別紙物件目録1記載の建物(当時未登記、以下「本件建物」という。)につき強制競売開始決定をした(基本事件)。そして、本件建物につき、同日、差押の登記をするため表示登記(家屋番号七〇八番二一の三)が経由されたうえ、相手方(債務者)名義の所有権保存登記及び上記強制競売開始決定を原因とする差押登記が経由された。

(3)  別件競売手続における現況調査報告書には、「本件建物は建築の時期からみて件外甲建物の附属建物になるのではないかと考える」旨の記載があり、評価書においても、「本件建物を含む本決定別紙図面表示の受命外建物は件外甲建物の附属建物と判断されるので併せて評価する」旨の記載がされている。基本事件における現況調査報告書には、別件の上記現況調査報告書の記載が引用されている。

(4)  そこで、原審は、平成七年二月九日、上記(3)記載の資料によれば、本件建物は件外甲建物の附属建物であって、独立した建物とは認められないとの理由で、民事執行法五三条を類推適用して、本件建物に対する本件強制競売手続を取り消す旨の決定(原決定)をした。

(二)  抗告人は、本件建物は件外甲建物の附属建物ではない旨主張するので、この点について検討する。

一件記録、別件記録及び抗告人が当審に提出した資料によれば、次の事実が認められる。

(1)  本件建物、件外甲建物及び件外乙建物は、いずれも本件敷地内に所在しており、その位置関係は別紙図面表示のとおりである(本件建物は、別紙図面表示の「受命外建物(未登記)倉庫」に、件外甲建物は、同図面表示の「物件3居宅」に、件外乙建物は、同図面表示の「物件2居宅」にそれぞれ該当する。)。本件建物と件外甲建物は、本件敷地内のほぼ中央部に約一・五メートルの距離を置いて隣接している。

(2)  本件建物は、相手方が昭和四二年ころ建築所有した軽量鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺平家建倉庫であり、相手方とその前妻が一時ここに居住していたことがある。本件建物は、床が土間等になっており、電気の設備はあるが、給排水・衛生等の設備はなく、現在は相手方により農機具(脱穀機)の保管庫として使用されている。本件建物は、件外甲建物及び件外乙建物の登記簿に附属建物として登記されていなかったため、前記(一)(2)のとおり表示登記が経由され、相手方の所有権保存登記及び差押登記がなされている。

(3)  件外甲建物は、相手方の父が昭和三八年ころ建築所有した木造瓦葺平屋建居宅、一四一・五三平方メートルであり、そのころ同時に別紙図面表示の受命外建物(未登記)便所及び同物置(未登記)も建築されている。相手方は、平成元年五月一五日父が死亡後、遺産分割により件外甲建物の所有権を取得した。件外甲建物は、床がたたみ板張り、土間コンクリートになっており、電気・給排水・衛生等の設備がある。以前は相手方家族が居住し、本件建物建築後は相手方の両親が居住していたが、現在は相手方の母が居住している。

(4)  件外乙建物は、昭和五二年一二月に相手方が建築所有した鉄筋コンクリート造陸屋根二階建居宅である。同建物は、床がたたみ、板張り等になっており、電気・給排水・衛生等の設備がある。相手方は、現在妻子とともに同建物に居住している。

(5)  本件敷地、件外甲建物及び件外乙建物について、相手方名義の所有権移転登記がなされたが、平成五年九月二七日付で太田健一に同月一三日売買を原因とする所有権移転登記が経由されている。しかし、同人は、相手方の妻の父であり、相手方の妻は、現況調査を担当した執行官に対し、相手方の債務の解決をしてもらう約束で名義を太田健一に変更した旨陳述している。原告藤田富三から被告太田健一に対し、上記所有権移転登記は仮装行為、予備的に詐害行為であるとして所有権移転登記抹消登記手続請求訴訟が提起され、平成六年一月一七日、同事件について原告勝訴の判決(欠席判決)がなされ、確定している。

(6)  本件建物と件外甲建物には公道に面してそれぞれ各別の入口が設けられており、公道から右各入口まで車両によって直接行き来できるうえ、本件建物は、電気の設備があり、件外甲建物とは物理的に独立して利用しようとすれば、利用できないことはないが、前示のとおり独立した居宅として使用するには不十分である。

(7)  本件建物と件外甲建物は、それぞれ別個の固定資産として固定資産課税台帳に価格等の登録がなされている。

以上の事実によれば、本件建物と件外甲建物は、同じ本件敷地内に所在し、場所的に近接しているうえ、実質的にはいずれも相手方の所有に属すること、件外甲建物は普通の居宅建物であるのに対し、本件建物は簡易な構造の倉庫建物であり、現在農機具用の保管庫として使用されていることなどが認められ、これらの諸点に照らすと、本件建物は、件外甲建物と一体として利用しうるものであり、昭和四二年の建築当時はもちろん現在もそのように利用されているというのが相当であり、社会通念上継続して件外甲建物の経済的効用を全うさせる働きを有するものと認めることができる。登記及び課税台帳上の登録が各別になされていることは、前示経緯等によるものであり、必ずしも右認定の妨げとはならない。

そうすると、本件建物は、件外甲建物の附属建物であると認められるから、抗告人の主張は採用することができない。

(三)  次に、抗告人は、民事執行法五三条を類推適用したことは法令の解釈適用を誤ったものである旨主張する。

しかし、主たる建物である件外甲建物について前記のように別件競売手続が進行しており、附属建物である本件建物もこの手続による売却に含まれることが予定される以上、本件建物について別個に強制競売手続を進行させ、右売却とは別に売却を予定するものとすると、両手続における買受人に不測の事態を招来させることになる。したがって、附属建物である本件建物の強制競売手続は許されないものというべきである。

そして、本件では、前記のとおり本件建物について既に強制競売手続が進行していたところ、その後の調査結果により、本件建物が件外甲建物の附属建物であることが判明したものであるが、この場合においては、民事執行法五三条を類推適用して、職権により強制競売手続を取り消すべきものと解するのが相当である。この点に関する抗告人の主張は、採用することができない。

(四)  そうすると、本件建物が件外甲建物の附属建物であるとして本件強制競売手続を取り消した原決定は、正当である。

三、よって、本件執行抗告は理由がないから、これを棄却し、抗告費用は抗告人の負担として、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 上野茂 裁判官 竹原俊一 塩月秀平)

<以下省略>

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